無意識
浮島の実家は、名のある大社だった⋯⋯
毎日、多くの参拝客で賑わっていた。周辺の観光振興にも大いに貢献しており、浮島の父は名士としての顔も持ち、一時は市議会議員も務めていた。
しかし、裏の顔は日本屈指の霊能者だった。
社務所の裏側に、オカルト関係者でしか知り得ない⋯⋯除霊相談のための、特別な相談窓口を設けていたのだ。
その跡取り息子である浮島が⋯⋯
事もあろうに人ならざる者とまぐわったともなれば一大事である。
父は詳細を問い質して来た。
早朝の静まり返った本殿内で⋯⋯父と子が正座して向かい合って話し合う。浮島は今までに見たことの父の形相に驚き固唾を呑む。
「譲司⋯⋯昨晩のことは一切忘れなさい。今からお祓いもするから」
「⋯⋯」
浮島は父からそう言われ、祓いを受けた。
その後、いつもよりも慌しく朝食を摂り、普段通りに学校へ向かった。
浮島は自宅最寄り駅から数駅先ある学校へ通っていた。流れゆく車窓を見つめながら、昨晩の出来事を思い返そうと⋯⋯
「いや、ダメだ!父上からの言い付けは絶対だ!忘れろ!」
浮島は複雑な思いを胸に認めながらも、葛藤した⋯⋯
首を軽く左右に振り、別の事を考えようとする。そうこうしているうちに下りるべき駅に到着した。
ドアへ向かい、ホームへ降りる。
駅は浮島と同じ学校に通う学生たちでひしめき合っていた。
「あっ」
浮島は興奮と言うか⋯⋯車内で変に力を入れて考え事をしていたため、無意識に能力を発揮させてしまっていたようだ。
気づくと⋯⋯
カバンを持つ手とは反対側の手でつり革を握り締めていたことに気づいた。
「しまった⋯⋯うっかり、貫通マジックの念力を⋯⋯」
日頃から品行方正な人格形成に努めていた浮島は⋯⋯正直に、改札口で駅員につり革を渡す。
「すみません、なんかコレ⋯⋯つかまっていたら外れました」
つり革は根元からきれいな状態を保っており、ベルトに切断されたような跡はなかった。駅員は⋯⋯これを一体どうやって取り外したのか訝しがったが、浮島の通う学校は定評ある名門校であったため黙認することにした。
つづく