Young Heso Wright ~翻訳の迷宮~ 彼方の記憶

つまり、ヘソライト博士とイワナマヤ⋯⋯
このどちらか一方がやましい何かを心中に抱いていたことになる。
二人の現在地点⋯⋯
思ったり考えたことが具現化してしまう化身の間。本来は創造型タルパを作り出すための錬成の場であるが⋯⋯
真っ白なシーツに包まれたダブルベッド⋯⋯そして、意味深に並べられた二つの枕。これが何を意味するのか大人ならわかる話だった。
泣き崩れるイワナマヤ⋯⋯
「あたしじゃない!!」
「いや⋯その的⋯あ、そ、そうだ!!僕的でってことでいいよ!!僕は本当はスケベな男なんだ!!すまない!!君があまりにも魅力的で⋯⋯」
「何それ!?本当は私が原因みたいな言い方じゃない!!」
「と⋯⋯とにかく、落ち着こう的!!的!!この部屋から抜け出すための方法を早く見つけだそう!!これじゃまるで⋯⋯」
「まるでセックスしないと出られない部屋じゃない⋯⋯」
とりあえず、イワナマヤが攻撃魔法で扉やバリケードが破壊できないか調べるも⋯⋯やはり、ここでも魔法返しの呪いがかけられていた。一方、ヘソライト博士は部屋の壁、天井、床の隅々まで調べていた。
本当はヘソライト博士もかなり動揺していた。
しかし、しばらく時間が経ち、二人とも冷静さを取り戻しつつあった。
「ねぇ、あなたの初体験っていつだったの?」
突然のイワナマヤから思わぬ質問を驚くヘソライト博士。しかし、これに対して冷静かつ慎重に答える。
「22歳の時だった的かな。大学近くのバーで知り合った子とその日の晩⋯⋯少し酔っていたので、正直、あまり覚えていない。朝目覚めたら、横に全裸的なその子がいて一緒に添い寝していた。そんな感じかな。ははは」
「私は完全に忘れたわ⋯⋯流石に1000年近くも前の話だから、相手の顔、声さえ覚えていない。まったく思い出せない」
「そ、そうか」
「二人目も900年前以上だから⋯忘れた。本当に何も覚えていない」
「⋯⋯」
「三人目は800年前以上⋯⋯やっぱり、覚えていない。寿命が長いからって思い出もたくさん作れる訳じゃない⋯⋯なんだか、悲しいわ」
「なぁ、僕たち人間は寿命が短い的。限られた時間の中で精一杯生きなければならない的⋯⋯でも、君たちエルフの場合、今をのんびり生きていればいいじゃないかな。辛くなるだけだから無理的に思い出そうとしない方がいいと思う」
ヘソライトのこの言葉にはっとさせられ我に返るイワナマヤ⋯⋯
つづく