Young Heso Wright ~翻訳の迷宮~ テセウスの船

そして、次の瞬間である⋯⋯
目の前にあったベッドは霧散するように消えた。すべてはイワナマヤ自身が常日頃から心に抱いていた積年の葛藤が原因だったのだ。
「テセウスの船って聞いたことあるでしょ⋯⋯それと同じことが私の中、記憶でも起きているんじゃないかって⋯⋯ずっと、不安だったの」
「そう的か⋯⋯」
「今の自分が徐々に元の自分でなくなって行くような気がして毎日怯えていた」
「そう的か、そう的か⋯⋯でも、お父さんとお母さん、兄弟とかは?」
「あっ、それは大丈夫。とりあえず、写真が残ってるんで」
イワナマヤはそう言うと⋯⋯
ポケットからロケットを取り出し、蓋を開けて自分の親兄弟たちと思われる写真を見せてきた。
それを細い目で見つめるヘソライト博士⋯⋯
まぁ、失恋した相手に関する物は⋯⋯ほとんどの場合、残しておくものではない。寿命の長いエルフの場合、添い遂げることができた相手でも、死別と再婚を繰り返せば⋯⋯気持ちを切り替えるため、都度、整理するだろう。
忘れて当然だし、それが普通だ。
ヘソライト博士は⋯⋯シェイクスピアの悲喜劇にみるような、誇張された一個人の人生劇場に感情移入したことを少し恥、自分自身を嘲り笑った。
しかし、さらに次の瞬間である⋯⋯
今度は卑猥な〇〇〇のスライムが出現した。地上の入口近くで遭遇したモンスターとまったく同じものだった。
「キャアアアアアアアアアアアアアア!!!!」
悲鳴を上げるイワナマヤ⋯⋯
ヘソライト博士は恐怖で顔を引きつらせた。先程、ファイヤボールの魔法で焼死しかけたばかりだ。
イワナマヤが直情に軍用攻撃魔法を使用しかねない状況だ。こんな狭い閉所空間でそんなものを使用されたら⋯⋯
次こそ、命はない。
「落ち着く的!!的!!だいじょうぶ的!!襲ってこない的!!」
しかし、女性が直視するにはあまりもアレ過ぎるものだった。何せ〇〇〇なのである。とりあえず、ヘソライト博士の必死の説得で、イワナマヤは怯えながらも落ち着きを取り戻した。
自分を魔物から守ってもらうはずなのだが⋯⋯
逆にヘソライト博士が別の意味で彼女をガードしなければならない状況に緊迫した。同時にイワナマヤの一連の行動から⋯⋯ヘソス神殿全体に仕掛けられた恐るべしトラップ、罠に気づかされたのだ。
つづく