Young Heso Wright ~翻訳の迷宮~ 予感

〇口英世の若い頃によく似た青年がいた⋯⋯
タルパ界隈関係者なら知っていると思うが、トゥルパブロ・グアンティナ博士である。思念体の理工学分野への融合を夢見ていた心理学者である。
ピクシティから海を隔て遠く離れた国、ガトー公国の首都ウィルクスの中心街にある名門ウィルクス大学の教壇に立つ男だ。
学会誌を通じてヘソライト博士と交流を深めるようなり、磁石ジエンを強く支持していた人物である。
彼の目下の課題は⋯⋯
磁石ジエンによる核分裂反応である。
もちろん、この時点では計算上の話に過ぎなかった。
しかし、もしもである。実用化に至れば⋯⋯
安定的かつ理想的な核分裂反応の制御が行えるようになるのだ。制御棒不要で核暴走の心配もない、安心で安全な原子炉が作れるようになるのだ。
後に磁石ジエンで抽出、生成することに成功した核物質は⋯⋯
タルパニウムと命名される。
グアンティナ博士とヘソライト博士の二人は⋯⋯
最近は国際電話で議論を交わす機会も増えていた。そして、確かな友情も芽生えつつあった。このため⋯⋯互いに私的な部分まで立ち入り、込み入った会話を楽しむようにまで至っていた。
「ヘソ博士、あなたは人一倍好奇心の強いお方だ。それが原因で足元をすくわれるような事態にならないか⋯⋯とても心配になる時があります」
《心配をかけてすまない的⋯⋯実験は常にできるだけ多くの学者の目に触れさせる形で行い、問題性のない研究内容である的ことを証明していきたい》
出る杭は打たれるとはよく言ったものだ⋯⋯
ヘソライト博士の磁石ジエンの危険性を唱えるアンチのような学派も形成されつつあったのだ。
特にピクシティの若き天才医学博士、タルクス・タニウス医師は、磁石ジエンの医薬分野への応用に強い抵抗を示していた。
事あるごとにヘソライト博士を猛烈に批判する⋯⋯磁石ジエンアンチの急先鋒的な人物として知られていた。
後にトトバースで発生したパンデミック、豆腐熱と呼ばれるゾンビ化ウィルスが大流行の際、ヘソライト博士と因縁の対決を果す男ともなる。
ヘソライト博士は研究熱心であり⋯⋯
好奇心の強い男だった。
普段の日常生活は苦学生のように飾らず、質素で落ち着いた感じのする人柄であったが⋯⋯研究に関して言えばタブーすらお構いなしとなる。
そんな、見る者を手に汗握らせ、危うく感じさせる側面もあったのだ。
つづく