Young Heso Wright ~翻訳の迷宮~ 敵対者

ピクシティに一人の若き天才医学博士がいた⋯⋯
銀髪をしたイケメン青年医師、タルクス・タニウスである。
メディカルスクールを飛び級で卒業し、医師免許と医学博士号、それぞれ最年少で取得した天才である。
専門は脳神経内科であり、目下の研究課題は⋯⋯
秋刀魚病の根本治療である。
秋刀魚病とは⋯⋯
視界に入った特定の何かが分離して、二組の状態になって見える複視を主症状とする脳疾患である。原因は不明であり、精神安定剤による対症療法しか手立てがなく、治療困難な病として多くの医師が頭を抱えていた。
レビー小体型認知症の一種では?
そう考える医師も多かったが⋯⋯
しかし、物が二つに分かれて見える以外、特段問題に思える症状は確認されていなかった。
ただし、症状が悪化すると⋯⋯
二組の何かを見ただけで躁状態となり、誇大妄想的な言動が目立った。
この特異な脳疾患が秋刀魚病と命名されたのは⋯⋯
二匹の秋刀魚を見て、惚気と発狂した一人の中年女性に由来する。当初は恋愛感情に起因した何らかの精神性ストレスに思われたが、不可解な複視が引き金となっていることをタルクスが発見したのだ。
最近になり発症者が確認されるようになった病気であったため、何らか未知の感染症も疑われ続けている。
タルクスは名実ともに医師としての実践を積み上げ続けていた。
しかし、そんな彼の前にあるものが立ちはだかる。
磁石ジエンによる自然治癒力の増進である。当初はタルクスもヘソライト博士の研究に関心を寄せ、支持をしていた。
ただ、これは同時に⋯⋯
多くの医師が失業したり、多くの医薬品が不要となることも意味していたのだ。爽やかな好青年なイメージとは裏腹に、実は強い野心家でもあったタルクスは、次第にヘソライト博士の存在を疎ましく思うようになる。
「そもそも、磁石ジエンは免疫暴走、サイトカインストームに至る高いリスクがある⋯⋯そうだ。そうに決まっている」
病院の廊下を歩きながら、そんな独り言を呟き続けるタルクス⋯⋯
後にタルクスはヘソライト博士と因縁の対決を果す。ヘソライト博士のウィキスタン共和国やヲティスタン共和国での磁石ジエンによる研究活動を糾弾、ヘソライト博士の学会追放を企む。
ヘソライト博士の無邪気な好奇心が逆手に取られる⋯⋯
つづく