Young Heso Wright ~翻訳の迷宮~ 大志

タロフルヤ人の多くは⋯⋯
ヲティスタン共和国の出来事は、すべて対岸の火事に過ぎなった。
同国は現在、南部を中心に激しい内戦状態にあり、反政府勢力や麻薬カルテルとの戦いが続いていた。
周辺国への難民流出はもとより、麻薬密輸も問題視されていたため、国連を中心とした周辺国によるヲティスタン派兵も行われていたのだ。特にウィキスタン共和国は隣国となるため派兵の主力国となる。
一方、タロフルヤはこれに我関せず⋯⋯
そもそも軍隊を持たない国だ。国連にも非協力的で経済面での支援要請に対しても、まるで名古屋人のように鉄板な姿勢を決め込む。
今日も平和だ。
退屈なほど⋯⋯
ユノレソンは小倉トーストを食べながら、朝からその退屈な平和を持て余していた。このまま学校を卒業しても就職先は決まっている。学業の傍ら、夜はパンダチーズの工場でバイトもしていたが⋯⋯
それと変わらぬ生活が死ぬまで続くことになるだろう。
「おはよう、今日も退屈(平和)だね」
「おはよう、退屈(平和)だね」
そんな会話が隣のテーブル席から聞こえて来た。
ここはユノレソンが通うコミュニティカレッジ近くの喫茶店⋯⋯
他学科の学生同士だろうか。小さい学園だ。どこかで見覚えのある顔をした者同士が将来について話を始める。
これに聞き耳を立てるユノレソン⋯⋯
そして、朝っぱらから健康診断の結果について報告し合う、若者らしからぬ本当に退屈な内容だ。
血圧自慢なんかしてどうする⋯⋯
そう憤り、深いため息をつくユノレソン。
「金もコネもない俺が海外で一旗揚げるには⋯⋯傭兵になるしかない」
ユノレソンはそう決意を改めた。
コーヒーに砂糖を入れようと、テーブルの上に置かれたスティックシュガーを手に取る。
「そう言えば、このグラニュー糖⋯どこの喫茶店に行っても、タニウス農園って書かれているよな。儲かってるんだろうな⋯⋯」
タニウス農園とは⋯⋯そう、タルクスの実家である。
広大な農地と砂糖精製工場、直営店舗も持ち⋯⋯実はユノレソンが今利用して喫茶店もそうだったが知らない様子だ。
つづく