人外
時間がない⋯⋯
浮島の朝は忙しい。参道の掃き掃除から、社殿内の拭き掃除まで、怠りなくやらねばならない。
浮島の実家は地元でも有名な大社で、多くの神社職人はいたが⋯⋯皆、出勤して来るのは八時半だし、将来、宮司になる身としても、氏子にも示しを付けておかねばならない。
修行の一貫でもある。
その後、朝食を済ませたら、学校へ出発だ。
忽然と現れた狐面は気になるが⋯⋯そんなものは帰宅してから、じっくりと調べればいい。とりあえず、頭から面を取り外すと、机の上へ置いて、急いで参道へ向かった。
すでに浮島の父が参道で掃き掃除をしていた。
「おはようございます、父上」
「おお、譲司。おはよう。参道はもういいから社殿頼む」
「すみません⋯⋯」
浮島はいつも以上に社殿の拭き掃除に励んだ。
狐面に気を取られ過ぎて、今朝のスタートダッシュは、若干、遅れ気味となってしまった。
一生懸命に床を磨く⋯⋯
「おい、譲司⋯⋯ちょ、お前⋯⋯」
「はい?」
突然、背後から父にそう声をかけられたので振り向く。
すると、浮島の父が社殿入口で青ざめた表情をして立っていた。そして、震えながら⋯⋯自分の方に人差し指と、驚愕の眼差し向けていたのだ。
「ど、どうしたんですか!?父上??」
「お前⋯⋯まさか、昨日の晩⋯⋯そうか!それで今朝は少し寝坊したのか?」
「えっ!?ま、まさか⋯⋯」
「やっぱり⋯⋯そうだったか。単刀直入に聞く。お前ももう年頃の高校生だからわかると思うが⋯⋯人外と契ったのか?」
「えええええええええええええええええええええええ!!」
浮島は赤面しながら大声を上げた。
次の瞬間、浮島の父はつかつかと歩み寄って来て、浮島の手をつかむと引っ張るように奥の本殿の方へ連れていかれた。
「ど、どうしたんですか??いきなり!?」
「いいから来なさい!!」
つづく