Young Heso Wright ~翻訳の迷宮~ ダニーボーイ

地平線の彼方まで広がる砂糖大根⋯⋯
甜菜畑の中を往く一人の青年がいた。幹線道路のバス亭から伸びる一本の長い⋯長い畑道が彼の生家まで続いていた。
ここはタロフルヤ共和国の首都ホッカイロの郊外にある、タルクス医師の生まれ故郷、実家の農園だ。
「もうすぐ⋯⋯父さんと母さんに会える」
彼の家はとても貧しかっ⋯⋯
いや、グラニュー糖で大儲けをしている成金一家であった。
タロフルヤ共和国はタロイモやキャッサバが主要農産物であったが、タルクスの父は周囲の反対を押し切って砂糖大根、甜菜農家へジョブチェンジ⋯⋯それが見事に成功したのだ。
そんな訳でタルクスは幼い頃からシレっと裕福な暮らしをしていた。
教育熱心な両親であったことも相まって、彼は幼い頃から家庭教師を10人も付けられるなどの英才教育を受けさせられていた。
そして医者になった。
とりま、数年ぶりの帰郷となる。
「今年の大根は生育がいいようだな⋯⋯父さんの高笑いが目に浮かぶ」
遠くから⋯⋯畑道を歩いてそちらへ向かって来ていることに気づいた、彼の母の歓喜に溢れる叫び声が聞こえて来た。タルクスもこれに応えるよう、手を大きく振り上げ叫ぶ。
「母さーん!!帰ってきたよぉおおおお!!」
生家に到着すると⋯⋯ちょうど、日も真上に上がった時間ともあり、父の農作業の昼休憩も兼ねた、久々の一家団欒のライチタイムとなった。
「タルクス、仕事の方はどうなんだい。お前がいくら神童だったとは言え、医師の仕事は大変だろう」
「もう、だいぶ慣れたよ。去年、医学博士号も取得したんだ。なんか、思念界の偉大なる医学者で賞も受賞しちゃってさ」
「そうか、それを聞いて安心した。父さんも後何シーズンかで引退する。稼ぐだけで稼いだからな。わはははは。まったく、大根様様だ!!」
「大根農家⋯⋯後を継げなくて⋯⋯ごめん」
「何、言ってんだ!!父さんも母さんもお前を誇らしく思ってるんだ。そんな寂しいことを言うな。それより⋯⋯いい嫁さんもらって早く孫の顔見せろ」
これに苦笑するタルクス⋯⋯
しかし、彼はそんな父に負けず劣らず野心が強かった。
ヘソライト博士と対峙した後、政界へ進出してピクシティ市長(ピクシティは都市国家なので首相に相当)となり⋯⋯
その後、国際情勢の混乱に乗じてウィキスタン共和国の大統領になるのだ。
つづく