Young Heso Wright ~翻訳の迷宮~ 謎の発作

ホテル・ヤマダハルの総支配人、ルナモンド・ルイモンドこと⋯⋯
反政府組織「砂の騎士団」の最高指導者である⋯⋯
サンドストーム・ドゥ=ブリュリューズ伯爵・ユタカは、ひとつだけ大きな問題を抱えてた。
時折、謎の発作を起こし、意味不明な話を始める点にあった。
普段はインテリな気品ある紳士であるも、発作を起こすと人格まで豹変してしまうのだ。
「はぐっ☆」
「伯爵⋯⋯伯爵!!やだ!!まだ始まったわ!!」
「俺は⋯⋯俺は⋯⋯」
ヘソライト博士との対談を終え、同氏が立ち去った後の出来事である。キンカと二人きりでいたところそれは起きたのだ。
キンカは急いでコップに水を汲んで来て伯爵に飲ませる⋯⋯
「ほら、これ飲んで落ち着いて!!」
「ふーう、はぁ、はぁ、はぁ⋯⋯(ゴク)(ゴク)(ゴク)⋯⋯ふーう、ありがとう。キンカ。どうやら元の状態に戻ったようだ」
「今度は何を感じたの?」
「いや、また⋯⋯なんかすごいだらしない格好をしていて、散らかり放題の汚くて狭い部屋の中で、一人でパソコンに向かってアニメの動画見ながら、SNSで美少女のなりきりポストしてた」
「⋯⋯」
細い目になるキンカ⋯⋯
まぁ、毎度のことである。
また、水を飲ませたり背中を摩るなどすれば、すぐに落ち着きを取り戻し回復する、比較的、程度の軽いものだった。
しかし、こうして時折であるが⋯⋯
発作と同時に⋯⋯
別世界にいるもう一人の自分らしき人物と人格が入れ替わりそうになり、これを必死で抵抗するのだ。
「私は格式の高い名門貴族の家柄出身で⋯⋯薬剤師で博士号を持つ男だ⋯⋯堕ちてたまるか」
「今度、専門の医者に診てもらった方がいいかも⋯⋯」
伯爵はキンカのこの言葉に対して、睨むような目つきで反応⋯⋯キンカを一瞬だけひるませる。
「私は薬剤師だ。医療の素人ではない。自分のことは自分が一番よくわかっているつもり⋯⋯あっ、いや⋯⋯すまない、ごめんよキンカ。もう大丈夫だ」
つづく