陰陽師の事情
浮島には木口のタルパが見えていた⋯⋯
当然、完オートに近い状態であることもわかっていた。隙あらば、浮島の心に恋の矢を射ろうしていたのも察知していた。
今、この瞬間も⋯⋯
木口のタルパ、零が浮島に向けて弓矢を引いていた。
サークル部屋で木口と落ち合って以降、すでに数十本の矢が放たれていた。しかし、浮島はすべてこれを跳ね除け続けていた。
そう⋯⋯
浮島は木口の自身に対する気持ちに気づいていたのだ。しかし、木口の思いを受け止められない理由があった。
浮島には⋯⋯
「木口さん、今度の合同プロジェクトでは、実験の要となる大切な役割をお願いしようと思う。やってくれるかい?」
「えっ!!本当に私でもいいんですか!!」
「タルパーである君だからこそだよ。今回の実験はタルパの技も併用した⋯⋯少しばかり、趣向を凝らしたものにしようと思うんだ」
顔面を紅潮させる木口⋯⋯
その間にも木口のタルパ、零が恋を矢を放ち続ける。
もちろん、木口自身もわかってはいた。
尋常ならざる霊能力を持った浮島だ⋯⋯そう簡単に彼の心を射止めることはできない。だが、気持ちくらいは伝わるだろう。
いや、絶対に気づいているはず⋯⋯そう、信じて⋯⋯
零にお願いしていた。
以前、零から「自分の言葉で直接伝えたら?」とも忠言されたが、マスターである木口の要望に応えない訳にはいかない⋯⋯
零はとにかく頑張り続けた。
ただ⋯⋯
浮島のオーラ、霊力は本当に強かった。
そこらを漂う浮遊霊や動物霊も容易に手が出せない。出そうとした瞬間に一瞬で浄化される。
オカルト初心者である木口が作ったタルパ程度の霊力でどうこうできるものでもなった。
浮島はある事情、経緯から⋯⋯
人間との恋愛ができない呪縛に囚われていたのだ。
浮島も木口の思いに胸を痛めていた。
つづく